灯火の先に 第14話


シュナイゼルは、スザク達が気付くような形で動き始めていた。
あの事件以降あまり表に出ていなかったゼロを、大々的に動かし始めたのだ。
身振り手振りはゼロの模倣、声は初代の頃から使われている変声機による機械音声。あの爆破テロで顔を負傷した事も包み隠さずに話し、既に治療を終えたと伝えた。
ゼロの参謀となったシュナイゼルと共に行われた正式な発表。
堂々と立つゼロを見て、では今我々が探しているゼロは誰なのだろう?そもそも失明したゼロなど存在しないのでは?と疑問を持たせ、引かせるのが目的だ。
アーニャに言われたことでナナリーは反省したのか、スザクへ向かった注意をそらすために、中身はスザクだと自分に言い聞かせ、以前のように 振る舞った。
そのため、治療をしている間影武者だった可能性は高いが、今ここにいるのは本物のゼロだと、多くの国が判断すると予想された。
それでも油断なくC.C.達は動き、遺跡を経由して日本へ渡った。
結果、それは功を奏した。
各国は一度はその情報を信じたが、今のゼロが影武者、あるいは4代目である可能性はまだあると、失明したゼロを秘密裏に探し始めたのだ。
その仮面の下を誰も知らない、誰にも見せないのだから、入れ替わることなど容易い。もし4代目に交代したのだとしても、3代目を手に入れる事が出来れば、英雄ゼロとして再び立たせ、4代目を蹴落とし、自国を有利な立場にするよう働きかける事が出来るようになる。
・・・その時は中身が3代目である必要はない。
自分たちが手にしたゼロが3代目だと周りに思わせるためにも、3代目が自由に動き回っている今の状況は拙いのだ。

「つまり、お前に死んで欲しいのだろうな」

晩酌をしながらC.C.は事もなげに言った。
昔ながらの和風旅館の一室、湯上がりのC.C.は、浴衣をだらしなく着崩しながら用意されていた御膳に箸を伸ばした。新鮮な海の幸は日本酒によくあう。ピザは至高の食べ物だが、たまにはこういうあっさりとしたものもいいなと、ほろよい気分で目の前の人物の様子を伺うと、久しぶりの和食が嬉しいのか、懐かしい味に舌鼓をうっていた。

「偽物を仕立てても、本物が出て来なければどうにでもなる、か。馬鹿にしてるよね」
「馬鹿にしているつもりはないだろうな、ただ、考えが足りないんだよ」

そう言いながら、C.C.は日本酒をくいっと飲んだ。

「お前も飲むか?」
「いや、止めておくよ。感覚が鈍ったら困るからね」
「なんだ。つまらない男だな」

呆れたようにC.C.は言ったが、まあ、それは仕方がないかと杯を傾けた。
忘れそうになるが、スザクは目が見えない。
光さえ感じないほどの、完全な盲目だ。
視力以外の感覚で周囲を把握するという、人間離れした能力を身につけ始めた事で、日を追うごとに動きが自然になり、障害を持っている事を忘れそうになる。
これはやはり、守護者の血のなせる技なのだろうか。
視力を奪われても主を、王の血筋を守ろうとする本能。
何があるか解らない以上、ただのお荷物より動けるお荷物の方がずっといいが。

この旅館に二人は夫婦として宿泊している。
ただ、妻は目に障害があるため、付き人を一人連れていると言う設定だ。

「そういえば、咲世子さんは?」
「・・・情報収集だそうだ。追手が来ているかもしれないからな」
「遺跡経由で移動したから撒いたんじゃないの?」

出国の記録を残せないため、ブリタニアのペンドラゴン跡地にあった空間の歪みを通り黄昏の間へ行き、出口を神根島に設定し直して日本へ移動した。日本を選んだ理由、いや選ばざるをえなかった理由は、遺跡の傍に乗りものを隠していたのが神根島だけだったからだ。

「ゼロは日本で生まれた英雄だから、日本人の可能性は高いと考えるだろうし、もし、二代目がお前だと知られていれば、余計に日本を怪しむだろう?」
「それもそうか。なら早く他の国に行かないとまずいのかな」
「そのためには、色々準備が必要だ。何せ私たちにパスポートはない」

C.C.達は偽造パスポートを持っているが、ブリタニアからの出国記録が無い以上使えないし、何より登録している偽名をナナリーもカグヤも知っている。
使ったら最後、ここにいますよと告げるようなものだ。
同じ理由でカードも使えない。
緊急時に備え、各国の紙幣をいくらか用意していなければ、大変な目にあっていただろう。一応、架空の人物で作った口座は用意しているし、カードもあるがそれはもう少し様子を見てからでなければ使えない。

「身動きは取れない、か」
「だからこうして、今のうちに英気を養っているというわけだ」

だから、お前も飲め。
空だったグラスの一つに、C.C.は並々と日本酒を注いだ。
透明な液体が音を立ててグラスの中に満たされていく。

「だから、お酒を飲んだら歩けなくなるだろ」
「なんだ、たった1杯で感覚が鈍るのか?酒を飲んだ事が無いとか言うなよ?」
「飲めるけど、僕の目が見えてないこと忘れてるだろ」
「・・・ああ、そう言えばそうだったな。だが、どうせ飲んで食べて後は寝るだけだ。お前もこの部屋で寝るんだからどうにでもなるだろう」

だから飲め。
いつにないほどしつこいのは酔っているからだろうか。
酒を飲まなきゃやってられない、というのはどちらかといえば農園のベッドの上にいた頃の感覚で、今はそこまででは無いのだが。

「下戸ならやめておけよ」

からかうような彼女の言葉にカチンときて、反射的にグラスを傾けていた。

かち、かち、かちと手元の時計が進むのを見ていると、部屋の鍵が開けられた。
入ってきたのはこの部屋のもう一人の客。
時間通りに帰ってきたことに安堵し、時計をしまった。

「ただ今戻りました。・・・スザク様は、お休みでしょうか?」

テーブルの上には一人分の手つかずの料理と、食べかけの料理が二つ。
一方に座るC.C.は一升瓶を開けていて、その向かいにいるスザクは、畳の上に転がっていた。気持ち良さそうに眠っているスザクの体には毛布が掛けられていた。
スザクの席には、お茶とは別に空のグラス。
それだけでお酒を飲んだ事が解った。

「なに、少し飲ませただけだ。これを入れてな」

にやりと笑ったC.C.の手にはくすりが1包。
それを見て、思わず眉を寄せた。

「こいつがいては、今後の予定も立てにくいからな」

以前に比べ落ち着いてはいるが、些細な事でまた殻に閉じこもってしまうかもしれない。C.C.はスザクが好きではないが、ゼロを演じ続けたスザクを無碍に扱うつもりもない。だから彼女にしては驚くほどスザクを気にかけていた。

「で?動きはあるのか?」

二人はスザクが完全に寝入っているかを確認し、寝たふりの可能性も視野に入れて慎重に言葉を選びながら話し始めた。



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私の話では、遺跡から遺跡への移動はデフォです。
それが出来ないから侵略戦争と言う話は以下略

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